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La blonde aux seins nus マネの「胸をはだけたブロンドの娘」

フランス映画 (2010)

印象派の先駆者エドゥアール・マネ(1832-83)が1878年に描いた『胸をはだけたブロンドの娘』をオルセー美術館から12歳の少年ルイが盗むという何とも奇態なシーンから始まる映画。それに気付いた若い女性の監視員ロザリーが、相手が子供だったことから、非常警報を鳴らして警察に任せず、自分で追いかけたことで、逆に犯人扱いされる。そのロザリーを匿うというか、監禁したのがルイの兄ジュリアン。絵の盗難を引き受けた本人だ。そして、ジュリアンとルイはセーヌ川を航行するバルジと呼ばれる平底で細長い砂利運搬船の2人だけの乗組員。かくして、2人にロザリーを加えた3人は、映画ではお目にかかったことのないバルジという閉鎖空間で、映画のほぼ全編を過すことになる。盗んだ絵をどうするのか? 警察の捜査をどうくぐり抜けるのか? ロザリーは人質なのか単なる邪魔者なのか、あるいは、そこに恋が生まれるのか? 映画は最後まで3人が主役となって進行する。しかし、これは決して子供映画ではなく、完全に大人向きの映画だ。ルイは、声変わり前の少年にもかかわらず、平気で麻薬も吸うし、本気で倍の年齢のロザリーを愛し、25歳の兄と競い合う。他に例のない、しかし、如何にもフランスらしい映画ではある。もう一度くり返すが、バルジが映画の全編を通じて舞台となる映画はこれが初めてであろう。セーヌ川と航行といえば、パリの観光船しか思いつかないが、17-18世紀のフランスは、世界最大の運河大国で、セーヌ川、ロワール川、ローヌ川など主要河川は運河によってつながっていて、道路整備がお粗末だった時代、船を使えば、川さえあれば、どこにでも行くことができた。その名残りが、今も航行を続けている多くのバルジだ。観光客の目に入ることはないが、観光客で賑わうエッフェル塔の前でセーヌ川は南下し、ブーローニュ=ビヤンクール地区をぐるりと回ると北上し、ロンシャン競馬場の脇を通り、ミッテラン大統領時代に作られた副都心ラ・デファンスの前を北上する。凱旋門からラ・デファンスの手前の橋までの距離はわずか3.2キロしかないが、この間、セーヌ川は15キロほど南に蛇行している。そして、観光客は、そちらの方に行くことはない。私は、かつてのその区間を徒歩で歩いたことがあるが、その中には、下の写真のように、誰も歩かないような未舗装の散歩道の脇にバルジが停まっている光景によく出会った。まるで、この映画の一画面のように。

砂利を運搬するセーヌ川のバルジを、12歳になる弟のルイと一緒に操舵している25歳のジュリアンは、切羽詰っていた。父は末期癌でいつ死ぬとも分からない状態にある。10年前に妻を亡くし、15歳の長男と2歳の次男を残された父は、暴力で2人を支配してきた。さすがに2歳の幼児は殴らなかっただろうが、ルイが大きくなった頃には、2人とも毎日のように殴られ、ルイを庇った兄は倍殴られた。そのため兄は父を憎み、父は、自分の行為が原因であるのに兄を嫌い、自分が死んでもバルジは兄に譲らないと言ってきた。生まれてから、バルジで生活してきた兄弟にとって、バルジを取り上げられたら生きていくすべがない。そこで、兄は、悪漢の話に乗り、ある金持ちの収集家のために、オルセー美術館からマネの絵を盗み出すことを請け負う。そして、実行犯は、何でも兄の言う通りにする弟に任せる。ルイは、額の縁でカンバスをカッターナイフで切る練習をし、美術館で、監視員の隙をついて4秒で絵を切り取り、逃げ出す。それに気付いた監視員のロザリーは、相手が子供なので、大事にせず、自分で取り戻そうと後を追って、バルジに入っていく。彼女は、待ち構えていたルイにとって、船室の1つに監禁されてしまう。戻って来た兄は、ロザリーを殺そうとするが、①翌朝の新聞の一面は、盗難の容疑者をロザリーとしていた、さらに、②その新聞は、ロザリーが勝手に合鍵を使って抜け出して買ってきたものだが、どこにも通報せずに戻ってきた、の2点から、「一種の仲間」として扱うようになる。ロザリーは、途中に兄が寄った知人宅に、同じ絵の複製が飾ってあるのを見て、こっそり本物と交換する。その後、水上警察が調べにきた時、ロザリーは絵と一緒に水中に潜って隠れ、兄を助けるが、その際、絵が水に浸かってダメになった時、初めて交換したことを打ち明ける。その後、ロザリーと兄弟は打ち解け、泥酔した夜には、対岸の花を摘んできた方と結婚すると言い出す。ルイは朝一番に起きて花を摘んでくるが、兄が夜のうちに摘んで来たのを見てがっかりする。その後、兄とロザリーの仲は急速に進み、ルイにはそれが癪でたまらない。兄が、窃盗の依頼者にパリまで電車で会いに行くと、警察にたれ込みの電話をし、ロザリーを自分のものにしようとするが、ロザリーに子供扱いされ、絵を捜しに来た窃盗の依頼者からは、半殺しにされる。そこに、パリから兄が戻ってくると、今度は密告者として殴られる。しかし、ルイが窃盗の依頼者から殺されそうになったことを知った兄は、悪人どもと会い、①絵は渡す、②バルジはロザリーごと爆破して沈める、③ルイには手を出すな、という条件で話をつける。そして、爆破の直前、仲間の船乗りから父が死んだことを知らされる。すぐに病院に電話をかけると、父は、ルイにバルジを遺していた。これで、将来の生活は保証される。バルジの爆破はとりやめ、盗んだ絵はロザリーを通して返してもらうことにする。これに対し、窃盗の依頼者からはひどい制裁を受けるが、ロザリーが一流の画商である父を通して、美術館に絵を返却することができる道が開ける。これで、誰も罪に問われない。ロザリーは、ジュリアンとルイの待つバルジに駆けつけ、大歓迎を受ける。3人による幸せな水上生活が始まることを示唆しつつ、映画は終る。この映画で一番困ったことは、ドイツ製作のDVDに入っているのはドイツ語の字幕だけ。流布している英語字幕の内容とは、ほとんどの場合 一致しないし、訳はデタラメに近い。今まで頼りにしてきたオランダ語字幕は、英語字幕からの訳で役立ず。一方のドイツ語字幕も、ところどころ意味不明の場所がある。今回の訳では、どちらの字幕も意味不明で、立ち往生した箇所が数多くあった。敢えて訳を載せた場合も、2-3%の箇所は、間違っている可能性が高い。私の大学での第二外国語はフランス語だったし、ベルギーのフランス語圏で1年暮らした経験もあり、フランスでの旅行日数は3ヶ月近い。それでも、映画のフランス語を聞き取ることはできない。せめてフランス語の字幕があればと思うが、存在しない。

3人の主役の一人、ルイ(Louis)を演じるステーヴ・ル・ロワ(Steve Le Roi)については何も分からない。ルイは、有名な太陽王ルイ14世のルイだし、その太陽王のことをフランス語では「Le Roi Soleil」と標記する。これは、Steve Le Roiの後半と位置する。果たしてこれは芸名なのだろうか? 年齢は、設定の12歳でも十分通る〔Wikipediaの映画版は14歳と誤標記しているが、フランス語版では12歳となっている〕。12歳ではあり得ないような体験をするため、演技の幅が求められるが、見事にこなしている。


あらすじ

映画は、暗い室内で、豊満な乳房をもつ女性が、火の点いた麻薬タバコ(?)を少年に渡し、「乳首を焼いて」と頼む異常なシーンから始まる。少年が、おとなしくその要求に従うと、女性は身悶えする。すると、今度は、大人の男から、「来い」と命令され、ダイスで遊んでいた男が、代わりに女性のいる部屋に入って行き、抱きしめる。ここで、画面は急に明るく健康的になり、上半身裸になった先ほどの少年が、陽が燦燦と注ぐパリ市内のシテ島の南側のセーヌ川を上がっていくバルジ〔平底の荷船〕の上にいる(1枚目の写真)。少年の名は、後で分かるが、ルイ・リヴェラ。12歳〔10年前、2歳の時に母を亡くしたと言うシーンがある〕。先ほどの男性は25歳になる兄のジュリアン。2人は、バルジの所有者である父と3人でずっと船内で暮らしてきた。兄はバルジから出たことがあるが、弟のルイは、学校に行ったこともなく、物心が付いて以来、バルジの中だけで暮らしてきた。このバルジは、川や運河を通って砂利などを運ぶための細長い平底船で、砂利は全長の8割を占める前部の巨大な空間に詰め、船尾の操舵室の下には狭い台所と数部屋が設けられている。映画の冒頭の暗い場面は、そこでの過去の出来事。兄は、鬱憤晴らしに時々女性を連れ込んではこうして遊んでいる。ルイの楽しみは、バルジの上で裸で太陽に親しむこと。だから、暖かい時期は常に上半身裸でいる。ルイと兄は、サン=ミシェル橋のたもとに係留すると、バルジを下りてパリの街に出る。2人とも服装は、バルジに乗っている時のまま。だから、ルイは上半身裸のまま。兄:「腹が空いたな」。「僕もだ。ケバブでもひったくろうか?」。「くそ親爺が死にそうだと、食欲が湧くな」(2枚目の写真、矢印はノートルダム大聖堂)。2人は橋を渡るとシテ島に入る。兄:「びた一文ないぞ」。「2ユーロある。パニーノ1個買って、分けようよ」〔パンで具材を挟んだイタリア料理の軽食〕(3枚目の写真)。「良さそうだな。分けてばかりで、嫌じゃないか?」。「兄さんとなら、いいよ」。「砂利屋の親爺に払わせてやる」。「さもなきゃ、やっつけるんだよね」。2人は楽しそうだが、パリのど真ん中で上半身裸には違和感がある。
  
  
  

2人は、カフェに入り、ルイが、パニーノを半分にちぎって兄に渡す。ルイは、さっそくかぶりつく(1枚目の写真)。兄:「もし、親爺がサインしなかったら、終わりだ」。「僕らが、自動的に相続するんじゃないの?」。「違う。そもそも、俺たちを思い出せんかもしれんし、水上警察かパリ市に寄贈するかもしれん」〔2人の父は意識が朦朧としていて、しかも兄を嫌っている〕。「まだ長生きすると思う?」。「いつ死んでもおかしくない」。「そんなこと、言わないで」。「あいつを擁護するのか? 何をされたか忘れたのか?」〔いつも殴られていた〕。「サインを偽造したら?」。「お前、ペンが使えるのか? 俺は、あいつの尻に突っ込んでやりたいよ」。「看護婦を買収するとか」。兄の携帯に電話がかかってくる。兄は、ルイに、「ナンパしろ」と言って席を立つ。ルイは、さっそく、隣に座っている女性に、「船に乗ってみたくない?」と声をかける。相手が子供なので、女性は、「どんな?」と訊き返す。「パリを見るとか」。「私達、パリっ子よ」。「僕もだけど、川から見ると、まるで違って見えるんだ」(2枚目の写真)。「バトー・ムーシュのこと?」〔観光客向け遊覧船〕。「兄さんと僕は船を持ってて、砂利や砂を運ぶんだ」。「女の子も?」。「うん、時々。夏には楽しいよ」。一方の兄。電話の内容はよく分からない。「OKだな?」。「ああ」。「弟のことで二の足を踏んでないか?」。「俺に任せろ」。「計画は安全だ。やれ。アブラノヴィッチがしびれをきらしてるぞ」。この電話から、兄が、ルイを巻き込むような悪事を請け負ったらしいことが分かる。次のシーン、2人は父が入院している病院に行く。ベッドの前に立った兄は、「俺達のこと分かるか?」と話しかける。ルイ:「聞こえてないよ」。それでも、兄は、一縷(る)の希望を持って話し続ける。「船のことだ。俺達のものだっていう書類が要る。食うためには働かないと。船をくれるか?」。意識はあるが、思考能力がないように見える父は、何も言わず兄から顔を逸らす。それを見た兄は、「なんて野郎だ。死ぬまで変わらん」と怒って出て行く。1人だけになったルイは、父を寂しそうにじっと見つめる(3枚目の写真)〔それにしても、病院も半裸で行くなんて…〕。父も、ルイを目つめる。ルイは、何も言わずに部屋を出る。
  
  
  

バルジに戻った2人。兄は、操舵室の前に座り、ルイは台所で夕食を作っている。「焦げ臭いぞ」。「“熱々に” って言ったろ」。「“しっかり” って言ったんだ。来いよ、話しがある」。「どんな?」。「大仕事だ。頼まれて、絵を盗むんだ。たくさん金をくれる」。「どのくらい?」。「当ててみろ」。「さあ、6000?」(1枚目の写真)。「20万だ。お前が、額縁から2分で切り取るんだ」〔映画製作が2009年夏だとすれば、2600万円〕。「何で僕なのさ?」。「ガキだからな」。「何か不味いことが起きたら、俺がお前の代わりに責任を取る」。「怖くなんかない。やるよ」(2枚目の写真)。「お前は、いい奴だ。お前が弟で良かったよ」。ここで、ルイは嘘をつく。「あのね、父さん、僕に話したんだ。兄さんが出てった後」。「何て言った?」。「OKしたよ」。「何を?」。「船だよ。僕らにくれるって」。「この悪たれが。からかいやがって」。2人は笑う。ここで、2人がどんな状態で食べているかが映される(3枚目の写真、矢印)。何と、砂利を入れるタンクのシェルターの上だ。周辺は木と森しかないように見えるが、ノートルダムからセーヌ川を6キロ遡り、マルヌ川に入るとすぐに、このような場所はいくらでもある。
  
  
  

翌日、2人は、まず、当座の資金を得るため、砂利運搬業者の事務所に向かう。兄は、断られることを前提に、ルイに、「マズいことになったら、このスプレーを使え」と言って、催涙スプレーの缶を見せる(1枚目の写真、矢印)。バルジから降りると、兄は、スプレー缶をルイに渡し、ルイはそれをジーンズのお尻に突っ込む。兄は、業者の小屋に交渉に入って行き、その間、ルイは入口脇のイスに座って待機する(2枚目の写真、手にスプレー缶を持っている)。ドアが開いているので、声は筒抜けだ。兄:「運搬料を払ってくれ」。業者:「あんたじゃなく、父さんにだ」。「死にかけてる」。「悲しそうには見えないな。それに、契約の相手は父さんだ」。「何とかしてくれよ」。「お前は信用できん」。怒った兄は、業者の顔を殴る。その音を聞いたルイは、すぐに小屋に飛び込み、ロッカーに上がって、隠してあった財布を下に落す。兄は、財布からお金を抜き取ると、ルイに命じて 業者の顔に催涙スプレーをかけさせる。こうして、業者が動けなくなっている間に、兄、ルイの順に、裏の窓から逃げ出す(3枚目の写真)。業者も業者だが、兄の行為は明らかに犯罪だ。
  
  
  

2人のバルジは、セーヌ川を下る。ロワイヤル橋を過ぎた時、兄が、「おい、ルイ」と呼ぶ。空の砂利タンクの中でスケボーをしていたルイは、急いで外に出る。兄は、「見てみろ」と、オルセー美術館を指す。「金塊と同じ価値のある絵がいっぱいだ」(1枚目の写真)。この時、ルイの背後に映るのは、本来ならレオポール・セダール・サンゴール歩道橋でないといけない。ところが、1枚目の写真に映っているのは、そこから850mも下流にあるアレクサンドル3世橋〔パリジャンなら、すぐに間違いに気付くだろうに…〕。翌日、バルジは都心部を通り過ぎたどこかで停泊している。辺りには木立しかない。兄は、ルイの着る物、額縁に安い絵を数枚買ってバルジに戻る。ただし、ルイに真っ先に渡したのは、パニーノ。余程好きなのか? ルイは、すぐに電子レンジに入れる。兄は、1枚の絵はがきを見せ、「このおっぱい見てみろ」と言う(2枚目の写真、矢印)。「俺達は、これをいただくんだ。絵はオルセーに架かってる。お前用に、サンダルとシャツを買ってきた。中流家庭のガキに見えるようにな。明日、偵察に行け」。そう言いつつ、婦人用のサンダルを、それと知らずにテーブルの上に投げる。赤い格子柄のシャツを着て、黒いフェルトのブレザーを着たルイは、狭い室内を歩かされる。「もっと尻を振れ」。「おかまじゃない」。そのあと、兄は、「リーボックしか履かない」というルイに、無理矢理サンダルを履かせる。そして、髪の毛をつかむと、「よく聞くんだ。絶対に注意を引くな。誰も見るな。特に監視員を。絵の架かってる高さをチェックしたら、すぐに戻れ」と注意する(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、ルイは、黒いブレザー、短いジーンズに婦人用サンダルという奇妙ないでたちで、右手に絵の入る大きな箱を持っている。小学生の館内写生にしては、画架もないし、画材一式もない。まるで、絵を盗みにきたように見える。ルイは、マネの「胸をはだけたブロンドの娘」を見つける(1枚目の写真、矢印は監視員)。ルイは、兄の警告を無視し、ついつい、きれいな監視員を見てしまう。監視員の方では、ルイの履いているサンダルを変な顔をして見ている。ルイは、難しい顔で、鑑賞している振りをして、絵の高さを目測する。それが終わり再び監視員に目を向けると、彼女は、「ほら」といった感じでサンダルに目配せする。ルイが自分のサンダルを見ると、それは監視員が履いているのと、全く同じものだった。そして、監視員は声を出さすに笑い出す(3枚目の写真)。女性用のサンダルを、それと承知で履いている “変な子” と思われてしまった。
  
  
  

バルジに戻ったルイは、サンダルを兄の前に投げ出し、「大コケだ。同じもの履いてた」と怒る(1枚目の写真)。「落ち着け。誰がだ?」。「監視員だよ。彼女、自分が履いてるのを見せたんだ。女のサンダルなんか買ってきて!」。「絵は見てきたのか?」。「ああ」。「高さは?」。「僕、見られたんだ」。「誰でも、見るんだ」。「サンダル見て、ウィンクまでした」。兄は、不平は聞き流し、絵の高さと、サイズを示させる。それに基づいて、兄は、枠を似たような大きさし、木に打ち付ける〔実際の高さより、狭く、位置も少し低い〕。そして、ルイにカッターナイフで切り取らせる(2枚目の写真、矢印はカッターナイフ)。最初のトライアルは大失敗。絵の真ん中だけくり抜いてしまう。「お前バカか。額縁に沿ってカットしろ」。「見てないで」。2度目は、額縁だけ残して見事に成功。「どうやったんだ?」。「呪文だよ」(3枚目の写真、矢印はカッターナイフ)。夜になっても、ルイは、動くバルジの上で、カットの練習をくり返す〔空中でカッターナイフを動かして〕
  
  
  

翌日、ルイは、昨日と同じいでたちで、靴だけはリーボックを履いて美術館に入って行く。そして、マネの前に立つと、カッターナイフを出して機会を伺う。監視員のイスは、マネのすぐそばだが、部屋は隣で、その部屋には “最もスキャダラスな絵” として有名なクールベの「世界の起源」〔女性器の絵〕が架かっていて、その前に立った2人の青少年が触ろうとする(1枚目の写真、矢印)。それを見た監視員は、「何してるの?」と立ち上がってそちらに向かう。その間の4秒でルイは絵をカットし、剥がして逃げ出す。ルイが、盗んだ絵を箱に入れ、早足で歩いていると、後ろから、「こら!」と声がかかり、それが監視員だと分かったルイは走って逃げる(2枚目の写真、矢印は監視員)〔一番の疑問: なぜ、監視員は非常警報を鳴らさず、誰にも言わず、1人で追いかけたのか? ルイがまだ子供なので、自分で追いかけて取り戻せば、ルイを犯罪者にしなくて済むと思ったのか?〕。ルイは、そのままバルジまで逃げ込み、「やったよ、ジュリアン!」と叫ぶが、兄は外出していて誰もいない。すぐに監視員が入ってきて、「渡しなさい!」と命じる。「何の用だ?」。「箱の中は何? マネ?」。「空(から)だよ」。「空なら、見るわよ!」。「空だってば」。「嘘はやめなさい!」。ルイは、監視員を部屋の中に押し込み(3枚目の写真、矢印は絵の箱)、鉄の引き戸を閉めると、外から南京錠をかける。中では、監視員が、「やっぱり、マネだわ!」と叫んでいる。ルイは、「うるさい!」と怒鳴る。中から引き戸をドンドン叩くと、「黙れ、このブス!」と大声で叫ぶ。
  
  
  

兄がバルジに戻ってくると、ルイは疲れて眠っていた(1枚目の写真)。「おい、ルイ、どうした?」。「どこに行ってたの?」。「盗んだか?」。「うん、“ブロンドの娘” は2つあるよ」。「2つって?」。「部屋の中」。「何だと? 何 言ってんだ?」。兄が鍵を外して鉄扉を引くと、監視員が「出しなさいよ」と喰ってかかる。ルイは、「僕を追って来た。絵を取り戻したがってる」と説明する(2枚目の写真)。女性は、「私は美術館の監視員よ。その子、すごくバカなことしたの」と言って、絵を見せる。「俺に寄こせ」。監視員は一歩下がり、「近寄ったら、破るわよ」と脅す。ルイ:「どうする?」。兄は、何も言わずに扉を閉める。「助けて!!」。「エンジンをプル・パワーにしろ」。兄は、ルイにそう命じると、再び扉を開け、今度は自分も中に入って再び閉める。兄は、“絵を破るわよ” と動作で脅す監視員の頬をいきなり引っ叩き、倒れたところで絵を奪う。そして、「しばらく一緒にいてもらう。叫んだら、どうなるか知らんぞ」と脅して、部屋を出て行く。兄は、操舵室に行くと、ルイと運転を代わる。ルイは、「僕の責任じゃない」と弁明する。「そうかな」。「ちゃんと盗んできたじゃない」(3枚目の写真)。これで、兄は何も言えなくなる。
  
  
  

朝になり、ルイが起きてくると、バルジは停泊していた。兄は、「お前のガールフレンドを連れて来い。そしたら、明るい所で見られる」と言う。「なんで、ガールフレンドなの?」。「お前が連れて来たろ」。「買い手と連絡はついたの?」。「ここじゃ、携帯の電波が届かん」。ルイが女性を連れてくると、兄は、「自分で洗って来い」と言う。女性は、裸になってセーヌ川の汚い水で体を洗う。それを見たルイは、「尻軽だ」と軽蔑する。「タオル、ちょうだい」。バスタオルを体に巻きつけた女性は、「ここどこ?」と尋ねる。「ジョアンヴィル=ル=ポン」〔マルヌ川沿い。ノートルダムの東南東約9キロ〕。さらに、「洗ったから、下に戻せ」とルイに命じる。女性は、美術館の職員としての専門知識から、「絵は、下に置いておけないわ。湿気があり過ぎるもの。甲板の方がマシっよ」と注意する。ルイは、兄に言われて 女性を下に降ろし、代わりに、マネの絵を運んで来る。絵は、いつの間にか額に入っている(1枚目の写真、矢印)。それを見た兄は、「お前、額ごと盗んできたのか?」と訊く。「違うよ。彼女が、昨夜、額装したんだって。絵が変形しないように。カバーかける?」。「いいや、影に置いとこう」。そう言うと、座っていたボートの下に入れる。ルイは、「ねえ知ってる? 彼女ってどうかしてるよ。自分が誘拐されたことにも気付いてないんだ」と言い、兄に頭を叩かれる。その後は、2人だけの朝食。ルイ:「これから、どうするの?」。「彼女を殺す」。「僕、ヤだよ。兄さんの頼みでも。他のことなら何でもするけど」(2枚目の写真)。「なら、俺1人でやる」。その時、カーテンの向こうから、「私にも何か食べさせて」という声がする。「24時間、何も食べてないもの。非人道的よ。買い手を見つけてあげるわ。300万の価値がある〔4億円弱〕。ルイ:「僕たちをからかってるんだ」。「最低でもよ」。「何が言いたいのかな?」。兄は、「連れて来い」と命じる。ルイは南京錠を開ける。兄は、女性を食卓に座らせる。そして、「絵には詳しいのか?」と訊く。「私は、所蔵品のリストを作ってるから、値段も知ってる。『胸をはだけたブロンドの娘』の市場価値を知ってる? 400万よ」。「5、60万」って聞いたぞ」。「それなら、モローね」〔ギュスターヴ・モロー〕。「どう助けてくれる?」。「こっそり隠し持っていたい収集家とか… あんた、何も教えてもらっていないみたいね。マネは、エッフェル塔みたいに、世界中で知られているのよ」(3枚目の写真)。
  
  
  

食事を終えたルイは、絵をボートの下から出して来て、自分の部屋のベッドに寝転ぶと、つくづくと眺める。“ふーん、そんなに高いものなんだ” といった感じだ(1枚目の写真)〔粗探しが好きなわけではないが、この写真を見ると、裏側に画布の白い部分が見える。この絵は、元々、余白なしに額に入っていて、ルイは額縁に沿ってカッターナイフで切ったので、再額装時に裏にまわすような画布などないはずだが…?〕。ルイは、ベッドの脇に膝を立てて座っている兄に、「マネが、エッフェル塔と同じくらい有名なら、これからどうするの?」と訊く。「分からんな。俺たちには、事が大き過ぎる。絵の価値だって、あいつら 嘘つきやがって」。ルイの興味は他にある。「何か変だよね。あの人、絵の女性と似てる」(2枚目の写真)。「胸はもっと小さいし、尖ってるぞ」。「触ったの?」。「ああ」。「僕もいい?」。「チャンスを逃(のが)したな。次に触るのは検死医だ」。その時、監視員の女性が、兄のギターを勝手に弾いている音が聞こえ、兄は、「何の真似だ?」と怒って立ち上がる。ルイは、「あの人、変だよ。楽しんでるみたい。自分が誘拐されたのに」と言う(3枚目の写真)。「明日は、ぶっ殺す」。「美術館で、あの人、警察を呼ばなかったよ」。
  
  
  

翌日、ルイは、トウモロコシ畑の中で、女性を埋めるための深い穴を掘らされている(1枚目の写真)。兄は、命令するだけで何もしない。殺すのに不賛成なルイは、「身代金を請求しない?」と提案するが、黙殺される。すると、そこに、いきなり女性が現れ、「お早う、よく眠れた?」と訊く。兄は、「何てこった!」とルイを責める。「その子を叱らないで。複製の鍵があったの」。そう言うと、手に持ったポリ袋を見せる。「ほら、トマトにツナに卵にバケット。そして、これ」と、新聞をルイに渡す(2枚目の写真)。「あんた達には、いい知らせね。私が犯人になってる」。新聞(3枚目の写真)には、「フランス・ソワール」のロゴの下に、アンダーライン付きで、「著名な画商の娘、容疑者に」、その下に大きな字で、「『胸をはだけたブロンドの娘』 消える」と書かれ、女性の顔写真が入っている。写真の下の文字はところどころボケて読めないが、「ヴィクトル・デュリューの娘で、美術館に勤務するロザリー・デュリューは、常軌を逸した行為、もしくは、何らかの予謀により、マネの『胸をはだけたブロンドの娘』を盗んだと考えられている」というようなことが書かれている。ここには、ルイの関与は一言も書かれていない。兄は、墓掘りは中断させ、ロザリーをバルジに連れて行く。
  
  
  

ルイは、兄の命令で、ロザリーを空の砂利タンクに入れる(1枚目の写真)。しかし、ルイが梯子を引き上げている途中で、ロザリーは船首に向かって走って行き、平気で壁をよじ登る(2枚目の写真)。これで、兄は、ロザリーをどこかに閉じ込めることは不可能だと悟る。ロザリー:「私達、どこに向かってるの?」。返事はない。「あんたって無口なのね」。「うるさいんだよ!」。「あんた達、2人とも悪人なの?」。「言葉に気をつけろ」。その後、ロザリーは、船内で自由に振舞い始める。キッチンを見回し、パスタと、錆防止剤の缶が一緒に置いてある無神経さに呆れる。ロザリーは、ルイに話しかける。「これ、あんたが買ったの?」。「兄さんと一緒だよ」。「一人じゃ何もできないの?」。「いつも一緒なんだ」。「2人の名前は?」。「僕はルイ、兄さんはジュリアン」。「姓は?」。「リヴェラ」。「川(リヴァー)みたい。素敵ね。そんな綺麗な名前なのに、こんな犯罪起こすなんて残念ね」。そう言うと、新聞でルイをポンと叩く。ルイには、ロザリーに抵抗する気はなくなっている。ロザリーは、食卓の後ろに絵を飾る(3枚目の写真)〔湿気は良くないのでは?〕。「ここがいいわ。良くなったでしょ?」。2人とも何も言わない。
  
  
  

夕方、2人と一緒に甲板の上にいたロザリーは、見て、「ポン=マルリーよ。ルノワールの頃から変わっていない。1888年に絵に描いたのよ」と解説する〔マルリーは、Marly-le-Roiのこと〕〔ルノワールがマルリーにいたのは、1871年だし、風景画など描いていない。1888年にはエソイエのアトリエで絵を描いている〕。コンクリートでできたすごく小さな橋の上から、誰かが袋を下ろしている(1枚目の写真、矢印)。「何してるの?」。「知りたがり屋に教えてやれ」。ルイは、「子猫を溺れさせてる」と説明する(2枚目の写真)。「何て、ひどいことを」。「今夜は、あそこで夕食だ」。「私、隠れてるべき?」。「彼らは、ニュースなんか見てない」。ルイ:「アンテナもTVもないんだ」。この家に住む老夫婦と、兄弟がどういう関係にあるのかは分からないが、3人は夕食をごちそうになる(3枚目の写真)。5人とも寡黙。おばあさんが、「彼女のトップス素敵ね」と言って、ロザリーが「ありがとう」と答えた程度。
  
  
  

すると、突然、おじいさんが、「8時のニュースを見よう」と奥さんに話しかける。おばあさんは、リモコンでTVのスイッチを点ける。ルイの話と全く違う。トップニュースは、ロザリーによる名画盗難で、顔写真も表示される(1枚目の写真、矢印)。ただ、TVは家の中、食事は家の外なので、画面は小さく、声も小さい。ロザリーは、お椀の中身を飲む振りをして、顔を隠す。おばあさんが、「Wi-Fiを入れたの」と誇らしげに言う。おじいさんも、「ルノワールも驚いてるじゃろう。なんせケーブルもないんだからな。それなのに、世界中のことが分かる。アルジャジーラですらな」と、こちらも自慢げ。危機感を覚えたロザリーは、「トイレはどこですか?」と訊く。「階段を上がって右のドアよ」。ロザリーは、すぐに家に入り、階段を走って登る。アナウンサーの説明で一番面白いのは、「絵は、プロの技で額縁から切り取られていました。疑いなく専門の泥棒の仕業です」という部分。ルイは、そんなに上手だったのか? ニュースを聞いたおじいさんは、「2000万ドルの値打ちのあるマネを盗むなんて、気違い沙汰だ」と感想を述べる。2階に上がったロザリーは、たまたま覗いた部屋に、『胸をはだけたブロンドの娘』の複製と、ダビンチの素描画の複製が飾られているのを見つける(2枚目の写真、矢印はマネ)。夜遅くになり、急に激しい雨が降り出す。雨具を持って来ていない3人は、びしょ濡れになりながらバルジに向かう。ロザリーは、子猫の袋があったことを思い出し、命を助けてやろうと、ロープから外す(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

キッチンのテーブルの上には、ロザリーに頼まれてルイが運んできた母猫がいる。それを見た兄は、「一体、何だ?」とルイに訊く。「ロザリーが…」。「ロザリーが、何だ?」。そこに、一足遅れて子猫を2匹手に持ったロザリーが降りてきて、テーブルの上に置く(1枚目の写真、左の矢印が母猫)。「何のつもりだ?」。「何って、母猫は子猫と一緒になれた。素晴らしいでしょ」。兄が怒って出て行くと、ロザリーとルイは顔を見合わせて笑う。ルイは、子供らしく、動物が大好きだ(2枚目の写真)。その後、ずぶ濡れになった兄弟がパンツ1枚になって体を拭いていると、ロザリーが顔を見せる。笑ってしまうのは、これまで上半身裸でどこにでも行っていたルイが、パンツ姿を見られるのが恥ずかしくてジーンズをパンツの前に置いて隠したこと。これは、ロザリーのことを、初めて異性として自覚したからであろう。「何の用だ?」。「寒いわ。セーター、持ってない?」。兄は、死んだ母の部屋を開け、「ご自由に」と言う。この行為に、ルイは反撥する。「ダメだよ。母さんの服じゃないか」(3枚目の写真)。「じゃあ、お前のセーターを貸してやれ」〔サイズが合わないことを知っていて、意地悪に言う〕
  
  
  

兄は、夜の雨の中、ワイパーを使ってバルジを進ませる。ロザリーは、セーターではなく、母の一張羅に近いきれいなワンピースを身にまとう。その様子を、タオルで身をくるんだルイが、天窓から覗いている。ロザリーは見られていることに気付いて、ニッコリ笑う。翌日も、バルジはそのまま突き進む。ルイが、部屋で小さな装置を作っていると(1枚目の写真)、子猫を持ったロザリーが、母猫見なかった?」と尋ねる〔ドアは開けっ放し〕。「ううん」。「あんた、朝から不機嫌屋?」。「知りたいんなら、これは爆弾の時限装置だよ」。ロザリーは子猫を持ち上げ、「どんな名前がいいかな?」と訊く。「さあ」。「私、この子が一番好き。あんたみたいな、アーモンド色の瞳してるから」。ルイは、これは何かのサインかと首をかしげる。次のシーンでは、バルジは停泊し、ルイとロザリーが並んで船首近くの台に座っている(2枚目の写真、矢印は2匹の子猫)。ロザリーは、「ここ、撫でてみて」とルイに子猫を触らせようとするが(3枚目の写真)、ルイは慣れていないので、触ろうとした指を引っ込める。
  
  
  

日中になり、雷鳴が響き渡ったので、兄は、タンクのシェルターをしっかり閉めている。すると、後方からモーターボートが接近してくるのが見える(1枚目の写真、矢印)。兄は、「ルイ、水上警察だ! 絵を片付けろ! 彼女を隠せ!」と叫ぶ。言うのは簡単だが、実行は難しい。モーターボートには、4人の警官が乗っていて、バルジを調べに乗り込んで来る。鉄の引き戸を1つずつ開けて中をチェックする。「出て来るんだ」。ルイが顔を出す(2枚目の写真)。「誰だ?」。「弟」。「こんなとこで、1人で何してる?」。「何も」。警官は、最後の扉に移動する。「ここは何だ?」。「母さんの部屋」。「仕事中なのか?」。「いいや、10年前に死んだ」。他に部屋はないので、警官達は立ち去る。ロザリーの姿がどこにもなかったので、兄は、「彼女は絵を持って逃げたのか?」と叫びながら、下に降りてくる。そして、扉を開けると、そこにずぶ濡れのロザリーがいた。「ここよ」。「絵は?」。「そこ」。窓の外にロープが1本見えている。兄がそれを引くと、水の中に入れてあった絵が出てくる。「5分間、潜ってたのよ」。しかし、そんな犠牲的行為よりも、兄にとっては絵の方が大切だ。水の中に入っていたせいで、色が落ちてしまっている。「台無しだ!」(3枚目の写真)。「これは本物じゃない。ポン=マルリーにあった模造品よ。心配しないで。あそこに置いておけば安全よ」〔すり替えるタイミングがあったとは思えないのだが…〕。兄は、ロザリーの機転に感心するが、自分に相談がなかったことには疑問を抱く。
  
  
  

その後、ルイが操縦し、兄は、横で新聞を読んでいる。「あのひと、ホントにすごいね」(1枚目の写真)「僕らにピッタシだ。おまわりは手玉に取るし、僕らのために5分間も水の中にいたんだよ」。バルジは、給油のために接岸する。その間、ルイとロザリーは上陸し、コンクリートの護岸を一緒に歩く。そこでは、ポーランド人がウォッカを飲んでいる。ロザリーが、「水はどこ?」と彼らに訊くと、「水ない。ウォッカだけ」と、酔っ払って答える。ロザリーは、水道栓を見つけて飲んだ後に、濡れた手で首筋をさすって「すっきりした」と言うが、ルイは、それを心配そうに見つめる(2枚目の写真)。「そんなことしない方がいいよ。トラブルに巻き込まれるかも」。その言葉通り、水場のすぐ近くでウォッカを飲んでいた別のポーランド人達が、自国語で声をかけてくる。ルイは、「うるさい!」と怒鳴る。「どうしたの?」。「あんた、あの手の奴ら知らないだろうけど、トラブルの元だ。信じてよ」。そのトラブルが、ウォッカの瓶をぶら下げてロザリーの前に来て、「ポーランド人」と言う。「フランス人?」。ロザリーは身振りで「ノー」と言う。男は、ロザリーの背中に手を回す。ルイは、男が片手をついたコンクリートのすぐ横でマッチを擦る。男は熱くて飛び上がる。男がポーランド語で何か喚くと、横にいた仲間3人が立ち上がり、ルイに襲いかかる。ロザリーはバルジが見える場所まで走って行くと、「ジュリアン、すぐ来て! ルイがやられてる!」と叫ぶ。ルイは、4人から暴行を受けそうになるが(3枚目の写真)、そこに全速で駆けつけた兄が、飛び込んで殴る、蹴る。最後は拳銃を向ける。兄は、ルイに、「ビンをかっぱらえ」と命じ、ルイは、4本のウォッカをつかみ取る。兄は、「くそったれのポーランド野郎」と銃で威嚇しながら、ルイと一緒にバルジに戻る。
  
  
  

その日の夜は、酒宴。ロザリーは酔っ払って兄のギターを弾き、兄とルイは、それぞれ1本ずつウォッカの瓶を持ち、お互いに半分ほど空けている(1枚目の写真)〔ウォッカはボトル半分で360cc。アルコール度数40%とすれば、飲んだアルコールは144cc。12歳の子に可能なのだろうか?〕。兄がギターを持つと、半分残ったウォッカの瓶を受け取ったロザリーは操舵室の屋根の上で踊る。そして、ルイを呼び寄せ、2人で踊る(2枚目の写真)。大騒ぎが一段落した後、ルイと兄は船首に行き、それを、ロザリーがサーチライトで照らす。ロザリー:「私のために花を摘んでくれるのは誰?」(3枚目の写真)。そう言うと、岸の草むらに咲いている花をサーチライトで照らす。ルイが、「僕、行くよ」と手を上げ、立ち上がろうとする。兄:「どこにも行けやしない。お前は酔っ払ってるし、流れは急だ」。ロザリーは、「なら、2人のどっちとも結婚しないわ。もう寝る」と言い、その場で倒れて寝てしまう。
  
  
  

早朝。目が覚めたルイは、花を摘みに行く。花束を右手で掲げ、両足と 左手だけで泳ぐのだが、流れが速いので泳いでも泳いでもバルジに到達できない。思わず、「ジュリアン」と叫ぶ(1枚目の写真)「溺れちゃうよ」。それでも何とかバルジに辿り着くと、花束を持ち、よろよろと階段を下りる。それを見た兄は、きれいな花束をロザリーに渡す。先を越されてがっかりしたルイは、階段を再び上がると、手に持った花束を(2枚目の写真)、川に投げ捨てる。そして、自分の部屋に閉じ籠もる。扉を開けた兄は、「どこにいた? 朝食に来ると思ってたのに」と白々しく言う。ルイは、「僕、あの人を愛してる」と本音をぶつける(3枚目の写真)。
  
  
  

「花束を渡して、僕の邪魔をしたじゃないか」。「酔ってるな。俺は、今朝行ったんだ」。「嘘だ。ロープは濡れてなかった。夜のうちに行ったんだ。涎を流してるようだけど、あの人は僕のものだ!」。「彼女は、お前には大き過ぎる。母さんとファックしたいのか?」。「もう、兄さんなんかじゃない!」(1枚目の写真)。「うるさい奴だ!」。「一緒にいたいから、これまでずっと乗せてたんだ!」。「行き先は心得てる。バカなお前が知らんだけだ!」。激しい口論の末、ルイは泣き寝入りする(2枚目の写真)。しかし、こうしたことがあっても、ロザリーはなかなか兄に体を許さない。給油のために寄った時も、ロザリーは、わざと操作係の前で誘うような仕草をしてみせる。それを見たルイは、兄に、「彼女は、尻軽だ。兄さんにぴったりだ」と悪態をつく。ロザリーは、操作係に腕から頬にかけてキスさせ、それを兄に見せつける。2人だけになり、兄が「いつまで待たせる?」と訊くと、ロザリーは、「私が望むまで」と冷ややかに答える(3枚目の写真)。
  
  
  

その後も無視され続けた兄の怒りは高まっていく。そして、“敵” であるルイの部屋を訪れる。「出てけよ」。「そう、ふくれるな」。兄は、今の膠着状態に疑問を持っている。「あいつ、絵をすり替えたろ。それは見事だったが、考えてみろ、もし、警察が来なかったら、俺達それに気付いたと思うか? あいつ、俺たちを操ってる。俺達が気付くハズないと思い、金を独り占めする気だ。どう思う?」。「きっとそうだ。なら、なぜ放っておくの?」。「もう決めた。船の底に沈めてやる」。この話を隣の部屋で盗み聞きしていたロザリーは逃げ出す。ルイの部屋を出て、ロザリーが逃亡したことに気付いた兄は、すぐ追いかけ、ルイにはサーチライトを当てるよう命じる。ロザリーはバルジの進む方向に走っているので、サーチライトで簡単に照らすことができる。次にルイが照らすと、2人は土手の上で絡み合ってキスをしていた。ルイは、2人とも信用できなくなり、ライトを消す。2人は、そのままバルジに戻ると、激しく愛し合う。扉は閉まっているので中の様子は見えないが、音で想像がつくので、ルイは、2人のいる部屋を睨み付ける(1枚目の写真)。部屋を出て、冷蔵庫にものを取りにきた兄を、真正面から無言で睨む。兄は、何も言わずに部屋に戻る。その次には、2人が川で楽しそうに泳ぎ戯れるシーンが挿入される(2枚目の写真)。その後も、2人は、昼間はラブラブ、夜は激しいセックスと、まさに熱烈な恋人同士。ロザリーのかつての “そっけなさ” は、兄を極限までじらすための作戦だったとしか思えない。頭に来たルイは、真夜中に小さなクレーンを動かす。その音で、何事かと甲板に見にいった2人が見たものは、ルイが首を吊ってぶらさがっている姿(3枚目の写真、矢印)。ロザリーは、本物かと思い悲鳴を上げるが、兄はクレーンを下げる。それは、人形にルイの服を着せ、ロープを巻きつけただけのものだった〔やったのは、ルイ本人〕。ロザリーは、部屋でハーモニカを吹いているルイを見つける。それを見た兄は、「この、クソッタレ」と罵声を浴びせるが、ロザリーには罪の意識があるのか何も言わない。
  
  
  

翌朝、バルジを1隻のモーターボートが追い抜いて行く。そこに乗っていたのは、絵の盗難を依頼した2人の悪党。絵を盗んで以来、何の連絡も寄こさない兄に対する示威行為だ(1枚目の写真)。兄は、鉄道の駅のそばにバルジを停泊させると、すぐ駅に向かう。ルイが外に出てゲームに夢中になっているのを見ると、「穴から抜け出すことにしたのか?」と皮肉った後、「サン=ミシェルまで交渉に行く。ここで待ってろ」と命じる〔恐らく、パリのサン=ミシェル広場〕。「彼女は共有だよね?」(2枚目の写真)。「違う。俺のものだ。今も、楽しんできたトコだ」。ルイは、兄を睨み付ける。兄は、そのまま去って行く(3枚目の写真)。この映画は、ほぼ全編でセーヌ川が映っているのだが、パリ以外は、どうやっても場所を突き止めることができない。この写真でも、閘門があり、トラス橋が架かっているのだが、グーグルの地図でも、どこか分からなかった。
  
  
  

ルイは、兄が、すぐ隣にある鉄道の駅に行ったのを確かめると、橋を渡った所にある公衆電話まで行き、電話をかける(1枚目の写真)。「警察ですか?」と言うので、掛けた先は分かるが、内容は分からない。ルイは、不機嫌な顔をしてバルジに戻ってくると、操舵室に入り、エンジンをかける。ロザリーが、「何してるの? どこかに行くの?」と訊くと、「ジュリアンが先に行けって」と答える。「ここにいるんだって、言わなかった?」。「少し先に静かな場所がある」(2枚目の写真)。バルジのことは分からないので、ロザリーには何も言えない。ルイは、直ちにバルジを出すと、上流に向かって進む。バルジが進む間、ルイの頭を “ひょっとしたら起きるかもしれない” 光景が頭を過(よ)ぎる。それは、ポンヌフの上で、兄が2人の男に取り押さえられるシーン。2人は、兄にマネの盗難を持ちかけた人物ではない。ということは、私服の刑事か? ルイは、兄を警察に密告したのか? ルイは、バルジを森に囲まれた岸辺に寄せ、碇を落す(3枚目の写真、矢印は落下方向)。
  
  
  

ジュリアンのことが心配なロザリーは、バルジから降りて森の中に入って行く。後を追って来たルイは、「どこに行くつもり?」と訊く。「心配なの」。「ジュリアンが? それは、あんたが、兄さんのことよく知らないからだよ。今ごろは、パリで ガールフレンドと一緒さ」。「ガールフレンドがいるの?」。「当たり前じゃないか」と言って、写真を見せる。それは10年前に死んだ母の写真だった。ルイは、何とか、ロザリーに兄をあきらめさせようとするが、ロザリーはすぐに気付く。「変ね、私の着てるドレスと同じじゃない。顔だって、あんたにそっくり」。ルイは、「美人だろ」と言って、写真を奪い返す。ルイの心が分かったロザリーは、ルイの首に腕を回すと、バルジの近くに戻る。辺りが真っ暗になると、船首から数メートルのところで、2人は焚き火の前に並んで座る。寒いので、2人とも服の上から毛布をかけている。ロザリーは、ルイに、「いい匂いね」と言う(1枚目の写真)。ルイは、ロザリーにプレゼントを渡す。それは、ガラスの中に蝶を封じ込めたベンダントトップだった。「金の蝶が家に飛んで来ると、誰かが結婚するんだ」。ルイは、そのあと、ロザリーに母親のことを訊き、話が終わると、「僕の母さんは、僕が2歳の時に死んだ。父さんはコシャン病院〔パリの公立総合病院の1つ〕で死にかけてる。僕たち、一日中(いちんちじゅう) 殴られてたんだ。兄さんは僕の倍。いつも、僕を庇ってくれた」。ロザリーは、ルイに同情する。バルジの中に戻っても、夜遅いのにルイはキッチンにいる。「寝ないの?」。「ううん」。「気分が悪いの?」。「ううん」。そして、「ピンと来ない?」とロザリーに訊く。「何が?」。「僕、あんたのこと愛してるよ」(2枚目の写真)。しかし、この必死の愛の表明も、「何をバカ言ってるの?」と相手にもされない。そして、ロザリーは、ルイを残して自分の部屋に入ってしまう。翌朝。ロザリーは、ジャムを塗った食パンを食べながら、ジャムをつけたナイフで、紙にルイの顔を描いている。ルイが、「あんた、あの絵のブロンドの娘に似てるね」と言うと(3枚目の写真)、「あんたはモデル、私は画家。黙ってなさい」。完全に子供扱いだ〔ロザリーを演じるヴァイナ・ジョカンテは何歳の設定かは分からないが、実年齢は20代の後半、30近い。12歳の設定のルイに「愛してる」と言われても、取り合わないのは当然だろう〕
  
  
  

その後、甲板に出て来たルイは、一服吸って極めて満足そうに煙を出す(1枚目の写真)。そして、船首まで歩いて行き、下の森で、バスタオルを巻いて下着を脱いでいるロザリーを見下ろす。ロザリーは、「ジュリアンが2時間以内に帰って来なかったら、探しに行くわよ」と強い調子で言うが、ルイは、「どこで、この麻薬手に入れたの?」と訊く。「私のバッグの中を見たのね?」。「これ、すごく いいものだ。父さんからもらったの?」。ロザリーは、「父さんは、芸術界で、芸能界じゃないわ」と否定する。そのあと、ルイは、クレーンで吊り下げたハンモックに寝て、心ゆくまで、麻薬を吸って楽しむ(2枚目の写真、矢印は煙)。2時間が経ち、ロザリーは歩いて下流に向かう。ルイは、走って追いつくと、「何するの?」と訊く。「ジュリアンに会いたい。あんたにはウンザリ」(3枚目の写真)「私達を捜してるかもよ。兄弟愛のかけらもないのね」。ルイは、ロザリーをつかむと、「今の発言 取り消せ!」と怒る。ロザリーは、「兄弟愛がないのは、ジュリアンじゃなくて、あんたなのよ!」と言い、ルイを地面に叩きつける。怒ったルイは、ロザリーに飛びかかると、カッターナイフを首に突きつけ、「あの絵のように切ってやろうか! ジュリアンはここにいろと言ったんだ! あんなクソッタレのために泣くんじゃない!」と脅す。しかし、立ち上がったロザリーは、「私は出て行く。あんたは、勝手にやってくのね」と言い、立ち去る。
  
  
  

夜になり、ルイがバルジの中に一人で寝ていると、突然、懐中電灯の光が顔に当たり、そのまま2人の男に拉致される。ルイは、必死に、「ジュリアン! 助けて!」と叫ぶが、そのまま森に連れていかれ、地面に投げ出される。2人は 兄に盗難を依頼した人物だったが、ルイは顔を見たわけではないので、相手が誰だか分からない。うち1人が、ルイの首を絞め、「とっとと言え! 一晩中付き合っとれん。絵はどこだ?」と訊く。「知らないよ」。「助けは来んぞ。あの絵がどこにあるか話すんだ!」(1枚目の写真)。首を絞める力は、どんどん強くなる。「吐け! どこだ!」。ルイは気を失ってしまう。2人は、ルイを放置し(2枚目の写真)、バルジの中に捜しに行く。しばらくしてルイに意識が戻り、体を起こす。寒いので、はだけていた体を毛布で覆い、ふらふらとバルジに戻る。その時、ロザリーが、バルジに戻って来て、「ルイ、どこなの?」と部屋に入って来る。「放っといてくれ」。「道に迷ったの」。「明日、ここを離れる」。翌朝、ルイは、バルジを出す。バルジは深い霧の中を進む。ルイは毛布に包まってハーモニカを吹いている〔前を見ていなくていいのだろうか?〕。バルジは長いトンネルを抜ける〔ということは、バルジは川ではなく運河を通っている。いつの間に運河に入ったのだろう?/因みに運河のトンネルは船が通れる幅しかない⇒逆方向に行きたい船は、トンネルの外で待っていなければならない〕
  
  
  

トンネルを出ると、昔、蒸気機関がなかった頃、船を牽いた通路に馬が何頭もいて遊んでいる。ロザリーは、その先の岸でバルジを降ろされる。ロザリーが運河の上に架かる橋の上まで来て、バルジを振り返ると、ルイが「何してる、とっとと行っちまえ。そこが、パリへの道だ!」と叫ぶ。そこに、車が1台通りかかり、急停車。助手席に乗せてもらっていた兄が、飛び出すと、ロザリーなど放っておいて、バルジ目がけて一目散に走る。それに気付いたルイは、バルジから降りて、岸に沿って反対側に逃げる。しかし、倍以上の年上の兄の方が断然早く、次第に追いつき(1枚目の写真)、ついに捕まる。兄は、「このクソッタレ!」と叫び、ルイに馬乗りになって地面に押さえつける。「やめてよ!」。兄は、「よくも、密告しやがったな!」と言ってルイの顔を何度も叩く。ルイは、「サン=ミシェルのディーラーのこと話しただけだ! 兄さんのことは何も言ってない!」と反論(2枚目の写真)。「兄貴を裏切ったんだぞ!」。そして、また叩く。「このクソ野郎が! 何でやったんだ?!」。そこに、ロザリーが、「やめなさいよ!」と叫びながら駆けつけ、止めに入る(3枚目の写真)。
  
  
  

3人はバルジに戻る。朝食の時間中、兄はずっとルイを睨み続ける。それでも、食事が終わると、ルイは兄の部屋に入って行く。「何の用だ?」。「昨夜、男たちが来て、絵はどこにあるって訊いた」。「バラしたのか?」。「僕が誰だと思ってる?」。兄は、「こっちに来い」と近くに来させ、目に黒痣のできた顔を調べ、首を絞めた傷跡に気付く。「これは何だ? 俺がやったのか?」。ルイは首を横に振り、「ロザリーはちょうどいなくて、運が良かった」と言う(1枚目の写真、矢印は首を絞めた跡、目の黒痣は兄に殴られてできた)。これを聞くと、兄は、ルイの頭を胸に抱き、許してやる。そして、バルジを降りると、道沿いの酒場まで歩いて行く。中には、例の2人がいた(2枚目の写真)〔2人は、なぜ、そこにいたのだろう? 兄は、なぜ知っていたのだろう〕。兄は、2人の前に座ると、直談判を始める。男:「俺達を密告したのは誰だ?」。兄:「分からん。あれは麻薬の捜査だ。絵の盗難じゃない」。「お前は信用できん。女とは縁を切れ」。「そいつは、賢いとは言えんな」。「事がうまく運んだ時しか、アブラノヴィッチは払わんぞ」。「プイゾンで、万事解決する」。「それは、どこだ?」。「セーヌの源流だ。2日で行ける」。「俺は、女と一緒に船を爆破する。きれいさっぱりな。だから、女のことは心配せんでいい」。「ガキは? 黙らせておけるのか?」。「あの子に手を出すなよ。ただじゃ済まさんからな」。「まあ、あの女と2日間、楽しむんだな」。バルジに戻った兄は、ひたすら酔っ払う。そして。あんな恐ろしい約束をしてしまった自分を呪う(3枚目の写真)。ロザリーが呼びかけても、答えずにウォッカを飲み続ける。
  
  
  

バルジがプイゾンに着くと、兄は、ルイと一緒に荷造りを始める。「必要なものだけ入れるんだぞ」(1枚目の写真)。「なぜ、船にいちゃいけないの?「。「他人の手に渡るより、いっそ沈めた方がマシだ。親爺は、死んでからも 俺を虐める気だからな。親爺は、俺の人生をめちゃめちゃにしたがってる。そう感じる。喉もとにナイフを突きつけられたようにな。かつて、親爺は、保険金目当てで船を沈めたが、破産しただけだった。3年間必死で働き、ようやく新しい船を手に入れた。親爺は、そこに、もう一つ部屋を欲しがった」。「僕のため?」。「そうだ」。「僕、この船好きだよ」。「お前は、他に何も知らんからだ」。「ロザリーだって、僕らと一緒にいる気だよ」。「あいつには、あいつの考えがあるのさ。マネだけが、俺達を助けてくれる。ホントの親父みたいに」(2枚目の写真)。兄は、廃船置き場のような場所に行き、そこで働いているニノという男に会う。一方、バルジでは、ルイが、「トンネルを出たところにいた馬のこと覚えてる?」と訊く。「ええ、素敵だったわ」。「ホントのこと知りたい。屠殺場に行く前に、ああやって歩かされるんだ。あんたもそう。逃げた方がいい」。「私がなぜ出て行くの。仲良くやってるじゃない。ジュリアンはいい人だし」。ニノは、兄を森の中に連れて行く。そして、川べりに出ると、「ここは、水深40メートルだ。鉢のようになってる」と、沈めるのに最適の場所を教える。そして、「先に、金をくれ」と言い、兄が200ユーロ以上渡すと、新聞紙に包んだ筒状のものを渡す。「注意して扱え。俺は、今夜、採石場で働いてる。8時に爆破しろ。警察は、俺がやったと思う」。再びバルジの中。ルイは、兄から、ロザリーを砂利タンクの中に入れ、シェルターに鍵をかけるよう命じられたことが心配で、子猫を前に考え込んでいる(3枚目の写真、手は鍵を握っている)。
  
  
  

夕方になり、ルイは、パブの中で兄が来るのを待っている。兄は、席に着くと、「注文したか?」と訊く。「ううん」。兄は、カリヴァドス〔リンゴの蒸留酒〕を注文する。「ロザリーはどうなるの?」。「鍵はかけてきたか?」。「うん」。兄は、鍵を要求する。「彼女のこと、何とも思わないの?」。「お前は違うのか?」。「僕たちを、裏切ったりしないよ」。「そうか? 俺はそうは思わん」。「兄さんがいない間、泣いてたよ」(1枚目の写真)。兄は、いたたまれなくなって席を立ち、酒を取りに行く。すると、仕事仲間に出会う。「元気か?」。「お前は」と挨拶を交わした後、男は、「吉報は訊いたか?」と尋ねる。「いいや、何だ?」。「お前の親爺は地獄にいる。昨日連れてかれた」〔兄が、苦労させられたことをよく知ってなければ、「吉報」「地獄」などとは言わない〕。「そうなのか? ぜんぜん知らなかった」。兄は、すぐに席に戻ると、そのことをルイに話す。すると、兄にとっては意外なことに、ルイは泣き始める。「泣くんじゃない。あっちの男達を見てみろ。奴らには、お袋も兄弟もいない。だが、俺達は2人だ。一緒になれば強いぞ」。兄が、どれだけ慰めても、ルイは泣き止まない(2枚目の写真)。カルヴァドスを勧めても、避けるだけ。兄は、自分で飲むと、もらい泣きし、愛おしそうにルイの頬を触ると、「病院に電話しよう」と言う。2人は、パブの中の電話から病院に電話をかける。兄は、癌病棟に電話をかけるので、観客には、父親が癌だったと初めて分かる。「親爺のことを訊こうと電話しました」「何時ですか?」。ルイが、「苦しんだ?」と心配する。電話の相手が、遺言があると話したらしく、兄が、「開けて、読んでもらえますか?」と頼む。電話を終えた兄は、ルイの顔を見て、「親爺は、お前に船を遺したぞ」と言う。「僕に?」。「そうだ」。「それって、どうなるの?」。「船はお前のものだ」。ルイは、一瞬笑顔になって、兄に抱きつくが、喜びと悲しみが半々で、すすり泣きは止まない(3枚目の写真)。
  
  
  

2人は すぐにパブから出る。「正確に言うと、どうなるの?」。「何でもお前の思うままだ。俺を放り出すことだってできる。なんてったって、親爺にとって、お前がただ一人の息子だったんだからな」。「兄さんもじゃないか」。「違うな。親爺にとっちゃ、お前だけが息子なんだ」。「絵はどうするの?」。「それが、大問題だ。返さんといかん」。「冗談だよね?」。「いいや」。「また、僕がやるの?」。「それはない。ロザリーに頼もう。彼女の親父さんも大変だろうが」。「うん、そうだね」(1枚目の写真)。その後、2人は、水源の近くまで行くと、兄は バッグからニノにもらった包みを取り出し、ダイナマイトの中身を川に捨てる(2枚目の写真、矢印)〔一般的なダイナマイトは、ニトロゲルが主成分でゲル状のものがほとんど。これは、あまり使われない粉状のダイナマイト〕。バルジに戻った2人。兄:「船を出してくれ」。ルイ:「兄さんは、ロザリーだよね」。ルイが、自分のバルジを嬉しそうに走らせている頃、兄は、砂利タンクに閉じ込められていたロザリーに会いに行く。2人は抱き合う。そこに、ルイが降りてきて、2人を抱きしめる(3枚目の写真、矢印はルイの両手)〔いつも思うが、バルジの操縦はどうなっている?〕
  
  
  

バルジは、ポン=マルリーの前で停まり、マネの絵を回収する〔水に濡れて退色した複製画と交換すれば、すぐバレてしまう。どこかで、新しい複製画を買ってきたのだろうか?〕。再びバルジに戻った3人は、パリへと向かう。ルイは、ロザリーに優しく抱かれている。完全な子供扱いだが、母を早くに亡くしたルイは、それに満足しているように見える(1枚目の写真)。夜のパリ。タンクのシェルターの上で、毛布にくるまったルイとロザリーは、ポンヌフを正面に見て、次にアルコル橋をくぐる(2枚目の写真)〔下流から接近したことがわかる〕。ロザリーは、絵を持って1人でバルジを降りると、父のアパルトマンに直行する。ドアのベルを鳴らすが、父は不在。しかし、すぐに階段を登ってくる音が聞こえ、2人はドアの前で鉢合わせする。2人は言葉を交さない。次のシーンでは、部屋に入った父が、ロザリーの持ってきたマネを画架に掛けると、娘に振り向き、「私は失職した」と言う(3枚目の写真)。「私が盗んだんじゃないわ」。「なら、誰だ?」。「言えない。でも、パパは助かるでしょ」。「お前は、変わらないな」。「違うわ、パパの仕事よ。失職したんでしょ」。この、履き違えた答えに、父親は猛然と怒り出し、それに逆ギレしたロザリーは父を床に押し倒して何度も叩く。最後に、自分の部屋に駆け上がって閉じ籠もる。
  
  
  

バルジでロザリーを待つ間、2人は、暗い中で話を交わす。「父さんは、母さんを愛してたの?」(1枚目の写真)。「なんで訊く?」。「何となく、知りたくなって。どうだったの?」。その時、兄は、誰もいるはずのないキッチンに、ナイフを持った男がいるのに気付き、銃を持って近づくと、途中でルイを部屋に押し込み、南京錠をかける。しかし、兄は、キッチンに入るなり、待ち構えていた2人組〔絵の盗難依頼人〕に顔を殴られ、床に倒れたところを、ひきずり起こされ、壁に頭をつけて殴られ、顔中血だらけに。もう1人は、ルイの部屋の扉を蹴るが、頑丈なのでびくともしない。怒った男はナイフで丸いガラス窓を破る(2枚目の写真、矢印はナイフ)。しかし、ナイフを持った手を突っ込んでも、何もできない。兄の方は、喉にナイフを当てられ、絶体絶命だが、男たちに直接害を与えたわけでもないので〔殺すと、ルイに顔を見られているので〕、もう一度蹴飛ばして出て行く(3枚目の写真、矢印は血まみれの兄)。歯は折れたかもしれないが、刃傷はないし、内臓を蹴られたわけではないので、幸い軽傷で済んだ。
  
  
  

翌朝、2人は、もう外を歩いている。兄の歩き方が変なので、ルイが、「おかまみたいだ」と言うと、兄は、「2人に殴られたんだから、仕方ないだろ」と言い返す。「だけど、ロザリーには説明しないとな」。「きっと、逮捕されてるよ」。「ロザリーが? あり得んな」。2人は、簡素な墓の前に来る。他の墓と違い、土が乱雑に盛られていて、小さな墓標が建っているだけ。「1954・2007」というのは、誕生年と死亡年だろう。ということは、この映画の撮影は2007年ということになる。2人は墓の前に立つ(1枚目の写真)〔病院が埋葬までしてくれたことになる〕。ルイは、意味不明の何かの部品を紙袋から取り出すと、それを墓の中に埋める。船を譲ってもらったことに対するルイなりのお礼だ。2人はバルジに戻ると、夕方になるまで、サン・ミシェル橋のたもとでロザリーの帰りを待つ。それでも、ロザリーが現われないので、兄は、「ロザリーが俺達を見つけたければ、川沿いに歩けばいい」と言い出す。ルイは、「ロザリーなしじゃ悲しい。きっと来るよ。それまで、ずっと待ってないと」と言う。「お前は、やっぱりどうかしてるな」(2枚目の写真)。そして、兄は、「行くぞ」と立ち上がる。これは、ロザリーを待たずに出発するぞ、という意味だ。一方、ロザリーがこっそり部屋から出てくると、下では、父が2人の男と話している。父:「1ヶ月かければ、元通りになる。とんだ事件だった」(3枚目の写真)。父は無事で、絵も元通りになると知ったロザリーは、ジュリアンのことしか頭にない。
  
  
  

バルジが、ドゥブル橋〔サン・ミシェル橋から上流に2つ目〕に差しかかると、その上にロザリーが現われ、「ジュリアン! ルイ!」と叫ぶ(1枚目の写真)。ロザリーは、橋のたもとから河岸沿いの遊歩道まで駆け下りると、操舵室の屋根に登ったルイが手を振って迎える(2枚目の写真、矢印はロザリー)。ロザリーは、停まったバルジに飛び乗り、ルイを抱きしめる。そして、船内にいて遅れたジュリアンが駆け寄る。3人は、これから幸せに暮らしていくであろう(3枚目の写真)。映画の最後。バルジは、ルイ・フィリップ橋の方から急速にカメラの方に進んでくる(4枚目の写真、矢印はルイ)〔実は、このエンディグは地理的におかしい。ドゥブル橋で、バルジはシテ島の南側を上流に向かって進んでいた。しかし、最後は、シテ島と隣り合うように上流にあるサン=ルイ島の北側・最下流にあるルイ・フィリップ橋をくぐって下流に向かっている。やろうと思えば、サン=ルイ島の回りをぐるっと回れば可能だが、なぜ? 視覚効果のため?〕
  
  
  
  

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